断片日記

断片と告知

ポポタム14周年記念包装紙

西池袋にあるブックギャラリーポポタムが、2019年4月1日で14周年をむかえます。14周年を記念した、わたしがイラストと文字を描いた、ポポタムの包装紙が出来上がりました。デザインは横山雄さん。4月1日の記念日より、ポポタムでお買い上げの商品を包みます。巻けば包装紙に、折ればブックカバーに、貼ればポスターになります。

包装紙は、無くなり次第サービス終了となります。

4月25、26日開催の『銭湯断片日記』トークショーご参加の方には必ず差し上げます。

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ポポタム14周年記念包装紙 絵と字:武藤良子 デザイン:横山雄

 

銭湯断片日記

2007年から書き続けたブログ「m.r.factory」を、ブログ移転に伴い「断片日記」と名前を変えました。こちらの「断片日記」も、引き続き、読んでいただけたらうれしいです。

そして、10年以上書き続けた「m.r.factory」の中から、銭湯について書いた文章のみをまとめたものが、この春、1冊の本になります。

書名は、『銭湯断片日記』。

版元は、室生犀星の本でもお世話になりました、金沢の龜鳴屋さんです。

本についての詳細は、来月半ばごろには発表できると思います。

発売を記念して、ブックギャラリーポポタムでトークショーをおこないます。本のこと銭湯のこと、そして龜鳴屋さんについて、楽しく話せたらと思います。当日、登壇は断られましたが、トーク会場に龜鳴屋の勝井さんも来られる予定です。たくさんのご予約、お待ちしております。 

 

 ***武藤良子『銭湯断片日記』刊行記念トークショー***

■日時

4月25日(木)7:30pm〜9:00pm オープニングパーティートーク
ゲスト:内堀弘石神井書林)×武藤良子
入場料 1500円+税(1ドリンク付)定員20名(要・予約)

4月26日(金)7:30pm〜9:00pm トークイベント
ゲスト:南陀楼綾繁×武藤良子
入場料 1500円+税(1ドリンク付) 定員20名(要・予約)

4月27日(土)まるまる一日サイン会
入場無料

いずれも店舗営業時間は1:00pm〜7:00pmになります。

■予約

トークショーの予約は、ブックギャラリーポポタムまで。

電話かメール、ポポタムの通販サイトからもご予約できます。

03-5952-0114
popotame@kiwi.ne.jp 

武藤良子「断片日記」トークイベント | Books&Gallery POPOTAME tokyo

■会場

ブックギャラリーポポタム

171-0021 東京都豊島区西池袋2-15-17
03-5952-0114(電話のみ)
popotame@kiwi.ne.jp 

武藤良子『銭湯断片日記』刊行記念イベント | ブックギャラリーポポタム|東京目白にある本とギャラリーのお店

 

 

 

 

犀星スタイル沖縄スタイル

沖縄の市場の古本屋ウララで個展をします。
2016年発行の『をみなごのための室生家の料理集』、2018年発行の『犀星スタイル』は、どちらも室生犀星の孫、室生洲々子さんが編集し、龜鳴屋が発行した小さな冊子です。わたしはその二冊に挿絵を描かせていただきました。『をみなごのための室生家の料理集』は室生家の料理を、『犀星スタイル』は犀星の暮らし方へのこだわりを紹介しています。二冊に描いた挿絵のなかから選んだ六点と、今回展示をさせていただく市場の古本屋ウララの店主、宇田智子さんが書いた沖縄の掌編に二点、合わせて八点の絵をウララの店内に展示します。
ウララでの展示は、2012年1月の『もの食う本』原画展以来です。今回の展示は、「NAHA ART WALK 2019」への参加企画と、犀星はアイドルです、という宇田さんのことばから実現しました。『をみなごのための室生家の料理集』、『犀星スタイル』、そして龜鳴屋さんが発行している本のいくつかを、今回ウララで販売します。市場の古本屋ウララへ、ぜひお立ち寄りください。

犀星スタイル沖縄スタイル
■会期
2019年2月2日〜2月14日
11時〜18時 日、火休み
■場所
市場の古本屋ウララ
〒900-0013
沖縄県那覇市牧志3-3-1
市場の古本屋ウララのブログ:武藤良子個展 犀星スタイル 沖縄スタイル:市場の古本屋ウララ

朝の音

たくさん飲んだ日の翌日、便所に行きたくて目が覚める。外はまだまだ暗く、夜と朝のはざ間くらい。尿意と布団から出る面倒くささをはかりにかけて、もう一度目をつぶったり、天井を見たり。そんなとき、ボン、と大きな音が隣りからする。隣りの豆腐屋が大豆を煮る大きな釜にガスを点火する音だ。ごぉごぉと、釜の底に火があたる音が、低く小さく続いていく。ごまかしきれず、布団をはいで便所へ行く。豆腐屋に面した便所の小さな窓から、煮えた大豆の甘く湿った匂いが漂ってくる。
便所から戻ってまた布団をかぶる。目をつぶるが寝付けない。そうしているうちに外が少し白くなる。白くなってはじめに騒ぎ出すのはスズメだ。周りには寺も墓地も木が茂る場所はいくらでもあるのに、どうしてこの窓の前の貧相な枝に群がるのかわからない。じゅじゅじゅじゅじゅ。じゅじゅじゅじゅじゅ。何匹いるのか、重なる鳴き声が窓のすぐそこで重たい。
キーギーキーギー。高く長く響くのは、斜め向いの葬儀屋の車庫があく音だ。古いシャッターは素直にあがらず、錆びの音を朝の街に撒き散らす。人々のケを巻き込んで、葬儀屋の朝があいていく。
大豆が煮えたのか、今度は豆腐屋の前が騒がしい。おはようございまーす。出来たての豆乳を目当てに、近所の人が、出勤前の人が、豆腐屋の軒先に顔を出す。軒先の棚には、円筒形で蓋のあるプラスティックの入れ物が、近所の人たちの豆乳のマイボトルが並ぶ。その場で飲んだり、持ち帰ったり。なにを話しているのか、ときどき笑い声が響く。
朝の音、豆腐屋のボンは日曜日が休み、葬儀屋のキーギーは友引の日が休みだ。
そんな朝の音に、春くらいか、それよりもう少し前だったか、ニワトリの鳴き声がまじるようになった。豆腐屋のボンの時間からときには昼過ぎまで、どこかでニワトリが鳴いている。近くの寺のあたりを歩いていても聞こえるし、だいぶ離れた神社の横を歩いていても聞こえる。街中の住宅街でニワトリを飼える家はそうそうないだろうと、近くの小学校にあたりをつけて近寄ると、ニワトリの声は遠ざかる。
よく行く弁当屋で、最近朝ニワトリの声が聞こえませんかと聞くと、あれうるさいわよねぇ、と迷惑顔。三時くらいから鳴いてるのよ。どこの家かしらと思って。並びの動物好きのうちあるでしょ。屋上で飼ってるのかしらって聞いてみたんだけど。違うって。どうも明治通りの向こうじゃないかって言うのよ。
うちから弁当屋まで一区画、弁当屋から明治通りまでさらに一区画、そこから交通量の多い通りを越えてさらに向こうの街から、ニワトリの声がうちまで届くのか。喉からしぼり出した、コケコー、コケコー。
そのうち探しに行ってみよう。鳴いてるときに、声を頼りに。隣町のニワトリ探しを楽しみにしていたが、そのうち、では遅かったらしい。ここしばらく鳴き声が聞こえない。よそにやられたか、鳥鍋にでもなったか。よく行く弁当屋まで、あら、そういえばそうね、食べられちゃったかしら、と似たようなことを言う。
ボン。コケコーコケコー。じゅじゅじゅじゅじゅ。キーギーキーギー。コケーコー。おはようございまーす。
朝の音からニワトリが引かれて、元に戻ったはずがなんだか少し物足りない。豆腐屋のボンもいつまであるのか。日曜日以外、大豆を煮続けた背中が見るたびに丸い。

夜のコンビニ

食堂のアルバイト帰り、近くの古本屋に顔を出す。いつもの顔が帳場の周りですでに一杯やっている。誰かもう一本飲む人いるー?と声をかけながら、夜のコンビニへ自分の酒を買いに出る。
また酒ですか。
腕に抱えた缶ビールを見て、レジの向こうの彼は必ずこう言う。
彼は、雑司ヶ谷に住む、作家で編集者のピスケンさんと、同じ風呂なしアパートの隣りの部屋に住んでいる。みちくさ市の打ち上げの店に行く途中、店への道がわからないというピスケンさんを迎えに、はじめてこのアパートを訪れた。アパートの戸を開けると小さな玄関から階段が伸び、二階にあがると暗い木の廊下の両側に点々と入り口が並んでいる。おーい、迎えに来たよー。ひと際うるさい部屋の戸を開けると、小さな流しの向こう、机と本しかないような殺風景な畳の部屋から、煙草の煙と酒の匂いが白く濁ってあふれ出す。ほら、行くよー。すでに酔っ払っているピスケンさんとお仲間に声をかけていると、ぼくの部屋ここなんです、とがらっと隣りの戸が開いた。夜のコンビニで会う彼だった。
酒を買ったときは、また酒ですか、と言い、珍しく酒じゃないものを買ったときは、今日は酒じゃないんですか、と言う。どちらにもうなづきながら、ピスケンさんは元気?と聞いてみる。二ヶ月に一度、みちくさ市のときにしか会わないピスケンさんは、二ヶ月に一度見るたびに痩せていく。えぇ、まぁ、と濁ったことばが返ってくる。
みちくさ市の打ち上げやお会式での飲み会に、ピスケンさんとともに彼を誘ったが、二度来て、二度とも酔ったピスケンさんをアパートまで連れて帰ってくれた以来、何度誘っても、えぇ、まぁ、と濁ったことばしか返ってこない。

嘆き節

西口のコンビニへ移動した彼の替わりに、西口のコンビニから新しい店長がやってきた。入れ替わりなんですよ、と新しい店長を紹介された。紹介された気安さからか、レジの向こうの新しい顔と話すことに抵抗がない。
自分が来たとたんすぐモノが壊れるんですよー、バイトのばっくれが多くてー、この店たばこの種類が多すぎるんですよー、少しずつ減らしますよー。
前の彼とは違う、真面目な顔での嘆き節もまた愉快で、あいかわらずこのコンビニに通っている。
アルバイトの顔も多少変わった。よく会うのは坊主頭のがっちりした体格の彼で、いまの店長の嘆き節のせいか、彼もまたよく嘆く。ある日行くと、寝てないんですよーと嘆き、またある日行くと、右手が痛いんですよー、と右肩の辺りを弱々しくさすっている。坊主頭とがっちりした見た目から、運動でもして痛めたのかとたずねると、いえ、役者をしています、と返ってくる。たばこを取るために一日に何度も手をあげるからですかね、とレジの真上の棚に右手をのばし、いてて、という顔を見せてくる。坊主頭にしたのも役ですよ。高校生の役なんです。
高校生?つい聞き返してしまったことばの響きを読んだのか、いや、留年した高校生ですよ、と照れながら笑う。
珈琲を待つあいだ、彼、役者なんですね、と新しい店長に話しかける。自分も昔、目指してたんですけどねー。どこか自慢げに、新しい店長がこちらを見返す。実際、多いですよ、この業界。時間の自由がわりと利くから。そうなんだ。うなづきながら、ここで働く顔とは違う、役者の顔はどんなだろうと想像しながら、いれてもらった珈琲を受け取る。