断片日記

断片と告知

おとえ、の打ち上げ

昼は、かえる食堂でみどりのカレー。
夜は、四谷三丁目のビストロで音の台所さんと「おとえ」の打ち上げ。お腹を空かせるために、西池袋のアトリエから四谷三丁目まで歩くことにする。いつもは明治通りをまっすぐ南下するのだけれど、今日は路地裏を歩いて行こうと思う。歩いていると、緑のいい匂いがする。生垣のバラの匂い、ジャスミンの匂い、若葉が萌える匂い。大好きだ。待ち合わせは7時。もう6時は過ぎているのに、まだ空が明るい。新宿の世界堂に寄り、2丁目を冷やかし、サンミュージックの前をどきどきしながら通り、四谷三丁目のビストロに着いた時には7時7分だった。感じのいい飲み屋の並ぶ、杉大門通り沿いの、ぼろっちい木造の2階。狭い店の中に、赤白チェックの布がかかったテーブルが、ぎっしりと詰まっている。隣との間が、10センチくらいしかない。その中で、みんなモリモリと何かを食べ、飲んでいる。フランス料理と聞いて、頭に浮かんだイメージとは大分違う。フランスの下町の定食屋、といった感じ。居心地がいい。そして楽しい。手書きのメニューを睨む。まず、メインは、合鴨のコンフィ、と決める。昼行ったかえる食堂さんで、おいしいですよ、と薦められたのだ。で、前菜は、鯛のカルパッチョ、をお願いする。飲み物は歩いてきて喉が渇いていたので、ハイネケンの生を、ぐぃ、っと。はぁ。おいしいビールを飲むと、気持ちが落ち着く。カルパッチョは、好きな料理の1つで、生の魚を食べるなら、刺身よりもこちらの方が好きなくらい。ビールにも合う。それなりの量があったと思うのだけれど、「武藤さんには、足りるかしら。」と音の台所さんが心配している。合鴨のコンフィが、テーブルに、どんっ、と置かれる。コンフィは、鶏肉を油で煮たもの。柔らかくて、程よく塩っぱくて、おいしい。付け合せの山盛りポテトとコンフィとパンを黙々と食べる。おいしいものを食べていると、集中してひたすら一生懸命に食べてしまう。デザートはレアチーズケーキ。そしてコーヒー。
音の台所さんが「おとえ」の最中にメモしていたスケッチブックを見せてもらう。参加してくれた人たちの絵を見た感想と、音の台所さんが選んだ音楽が、ざっと書いてある。いろんな感想がある。目玉、プランクトン、猿、そして退屈君の、ミジンコ、もある。
今まで、自分が鳥だと思って描いたものは、それを見た人も鳥だと思っていると、木だと思って描いたものは、見た人も木だと思っていると、何も考えずにそうだと決めつけていた。それが揺らいだのが、昨年の個展のとき、鳥の絵を見た退屈君が「これミジンコですか?」と、木の絵を見て「レコードプレーヤーですか?」と、発言したときで。そう言われれば確かにそうも見える、と思ったものの、そんな人は退屈君だけだろうと、心のどこかで思っていたら、実は絵を見たほとんどの人がそうだった、というこの恐ろしい事実が「おとえ」で判明してしまった。
帰り道、膨れたお腹をへこますために、家まで歩いて帰りながら、なんだか考え込んでしまうのでした。