断片日記

断片と告知

鬼子母神古本まつり

しばらくブログをお休みしていました。こうゆうものは、毎日書かないとダメなようで、久しぶりに書こうとパソコンに向かったのはいいのですが、何をどう書いていいものか、頭がうまく働きません。何行か書けば感覚が戻るかしら、と書いてみているものの、そもそも戻りたいような文章なんか書けたためしがないので、もうこのままいこうと思います。
朝6時に起きる。不摂生な生活をおくる人間に、この時間はちょっと辛い。それでも、どうやら外は晴れてるし、鬼子母神で古本市だし、なによりも副都心線雑司ヶ谷駅の開通だしで、重たい体を布団から引き剥がす。30数年、雑司ヶ谷で生まれ育って、まさか地下鉄の駅が出来るなんて、思ってもいなかった。たぶん、便利になったんだろう。たぶん、駅の周りから開発が進んで、雑司ヶ谷の持ち味だった古い家並みや細い路地たちは、ゆっくりと消えていくんだろう。でもそれは、とりあえず先の話。いつも静かな雑司ヶ谷の町が、珍しく浮かれている。こんな日は二度とないだろう。今日は1日楽しもうと思う。
7時過ぎに鬼子母神に着くと、すでに「わめぞ」の人々が車から本を運び、什器を運び、蟻んこのように働いている。これでも早く来たつもりだったのに、すでに出遅れている。当然みんなには気づかれているのだけれど、はじめから居ましたよ、という顔をして、黙々と働きだす。鬼子母神の本堂に向かって右側の場所。背の高い木々たちが日陰をつくり、涼しくて、とてもいい場所だ。木の下で、什器を組み立て、本を並べていく。いつもの古本市と同じ作業のはずなのに、気持ちがいいのはこの場所のせいか。設営も終わり、おにぎりを頬張る。そのコンビニのおにぎりさえも、やけにおいしく感じる。
古本市も手創り市も、9時開始。そんなに朝早い時間から人が来るのかしらという疑問は、はじまってすぐに答えがでる。副都心線に乗ってきたのか、そうでないのか、朝イチからものすごい人の数。普段、古本市や、古本屋に来たことの無い人たちが、楽しそうに覗いていく。どこに値段が書いてあるの、と何度か聞かれる。見返しを開き、ここにこれこの通り、と値段を示すと、そうかなるほど、と納得していく。玄人の人たち相手の古本市とは、また違う空気がここには流れている。
自分の参加している古本市では、めったに本を買わない。帰りが重くなるのも嫌だし、自分たちで買ってどうするよ、という気持ちがどこかにあるからなのだけれど、今日に限って、ずっと探していた本を見つけてしまった。古書往来座の棚で見つけた1冊。筑摩書房の「杉浦茂のちょっとタリない名作劇場」。10年以上前、人から貸してもらい、あまりにおもしろくて、自分でも欲しくなってしまった1冊。たまに古本屋で見かけることはあったものの、高くて手が出なかったのだ。そ、れ、が、800円って。しかもさらにマケてくれて、500円って。初版帯び付きで、この値段はありえないのでは。いいのだろうか。そういえば、いつもありがとねのAさんも、魚雷さんの棚から丸木俊さんの「女絵描きの誕生」の署名と絵入りの本を400円で買っていた。「わめぞ」の人たち、最近みんな忙しくて、ぼーっと値つけしているのだろうか。それで、こんな値段で本を出しているのだろうか。もしかして、じっくり見てしまったら、もっととんでもないものを見つけてしまいそうな気がするけれども、今日はこれで良しとしよう。
古本市を抜け出して、缶ビールを買いに行く。新しく出来た雑司ヶ谷駅のそばの、昔からある商店街。缶ビールと焼き鳥とコロッケを買う。古本市を眺めながら、石段に座り、よく冷えたビールを、ぐぃ、っと飲む。雑司ヶ谷副都心線特需は、きっと今日1日で終わりだろう。そんな日に、ここで古本市を出来たのは、幸せなことだとかみしめながら、またビールを飲む。
夕方4時で古本市も手創り市も終わり、撤収作業にかかる。1時間もかからなかったのではないか。あっという間に、いつもの静かな鬼子母神に戻っていく。夜は、いつもの居酒屋で打ち上げ。今日は朝早かったから、生ビールと手羽先を食べているうちに、眠くなる。座布団の上で寝転んでいると、後からやってきたブラックパンダこと向井さんに踏まれる。殺す気か、と言いたい。2次会はエンテツさんこと遠藤哲夫さんと、近くの居酒屋にいき、またビールを飲む。なにやらいろいろ話したような気もするけれど、あまり覚えていない。酔っ払いたちのたわ言なんて、別に覚えておくほどのものでもないんだろう。ただ楽しかったという気持ちがどこかに残れば、それでいいのだと思う。
鬼子母神古本まつりにご来場の皆様。どうもありがとうございました。はじめて会った方も、そうでない方も、今日という日に袖振り合えたことを幸せに思います。素敵な1日を、ありがとうございました。