断片日記

断片と告知

日記

有楽町線に乗って有楽町まで。階段を上り、地上に出る。ここは私の知っている有楽町じゃない。こんなツルピカのでかいビルなんて有楽町じゃない。角の焼きそば屋はどこに行ったんだ。その上のぼろっちい映画館はどこに行ったんだ。何も見ないように下を向いて歩き続け、マリオンを抜け数寄屋橋交差点まで来て、やっと顔を上げる。知っている銀座の町が目の前にある。
汐留の松下電工汐留ミュージアムへ。「アール・ブリュット -交差する魂-」展を見る。今回の展示で1番見たかったのは、戸來貴規さんの「日記」。戸來さんは、小さな紙に鉛筆で、毎日同じ日の日記を書き続けている。子供の頃の、たぶん1番楽しかった日の出来事を、繰り返し繰り返し何年間も書き続けている。何月何日、天気、気温、何を食べた、どこへ行った、何をした。その日記に書かれた文字は大きくうねり、所々塗りつぶされ、文字としてはもう読めないのだけれど、それがなぜかとても美しく、見ていて飽きない。毎日、紙1枚に書かれる日記が、数年分束になり、数10センチの厚さになって、ガラスケースの中に置かれている。何にも悲しいことはないのに、見ていると悲しくなってくるのは、なぜだろう。