断片日記

断片と告知

久しぶりの早起き。6時半に起き、7時半には家を出る。池袋駅構内でにぎり飯を3つ買い、新木場行きの埼京線に乗る。国際展示場まで直通のこの電車、池袋駅の時点ですでにコミケな人々が大勢乗っているのでは、という懸念はすぐに解消され、ぽろぽろとそれらしき人の姿はあるものの、そんなに気になるほどじゃない。だがしかし、新宿、渋谷、恵比寿と進むにつれ、コミケ密度が増していき、大崎からはほぼ満員状態。お盆の、日曜の、早朝で、この混み具合はなんなのだ。電車のアナウンスも「混み合いまして、大変申し訳ありません」にいつのまにか変わっている。コミケ密度が増すほどに、なぜか自分の気持ちも昂ぶっていく。お祭を見に行くんじゃない、参加するんだ、という、これだけの人が来るイベントを外からでなく内から見ることができること、が気分を昂揚させるのかもしれない。
国際展示場駅に着き、電車から降りる人の流れにそって改札を出、そのままエスカレーターで地上に出る。そこで見たものは、ものすごい人の波。ビックサイトまで、人の頭の黒い道が続いている。道の入り口で、一般参加者は右、サークル参加者は左、と何人ものスタッフが誘導している。実は、ビックサイトまでの黒い道はサークル参加者のもので、では一般参加者、つまりはお客さんたちはいったいどこへ、と右の方を見ると、そこには、いったい何万人いるんだよ、という人たちが黒い絨毯のようになって座り込んでいる。駅からビックサイトまでの結構な距離を、サークル参加者の道だけ空けて、それ以外の空いているスペース全てをこの黒い絨毯が埋め尽くしている。ここは日本じゃない、そんな考えが頭をよぎる。この人たちはいつからここでこうして待っているのだろう、と考えると頭がくらくらしてくる。これから行く場所は、そこまでして行く場所なのですか。
延々と続く黒い絨毯を横目にビックサイトまで歩く。入り口で、サークル参加者のチケットを渡し入場する。西、西、とうわ言のようにつぶやきながらブースの場所を目指すものの、よくわからない。広すぎて、人が多すぎて、自分がどこにいるのかも解らない。西と書いてある場所に着くも、そのどこが自分のブースなのか解らない。スタッフの人を捕まえて聞くと、反対側ですよ、とのお答え。ここの反対っていったいどこよ、とそれらしきところを目指して、あの事故があったエスカレーター付近をウロウロしているところで、携帯が鳴る。ナンダロウさんからで、今どこにいるのよ、というそれに、あの事故のあったエスカレーターの辺り、としか答えようがない。なんとか誘導してもらい、息も絶え絶えブースにたどり着く。この時点で、今日1日の体力の半分を使い切る。
ナンダロウさんと、先に到着していた和光大生のYさんと、ご挨拶。3人で、机の上に、同人誌と、フリーペーパーを並べ、つり銭の用意をし、ポスターを貼って、準備完了。ふと見ると、一般参加者の入場前なのに、すでに壁際に列が出来ている。どうやらサークル参加者の人たちが、自分のサークルそっちのけで、お目当てのブースに並んでいる列らしい。そんなことアリなのか、だったら外に並んでいた人たちはなんなのだ、と思いつつも、本当にどうしても欲しい本があったら自分もこうするかもしれない、とどっちとも言えない気分になる。開店のちょっと前に、壁だと思っていた目の前のシャッターが開く。目の前に広がるのは、さっき迷い込んだ反対側の西ブースでは。ここで繋がることになるのか。シャッターが開いた瞬間、涼しい風が吹き抜けていく。ここはなかなかいい場所ではないか。
10時開店。ブースに椅子は2つしかないので、和光大生のYさんに先にコミケ探索に行ってもらい、ナンダロウさんと2人で椅子に腰掛ける。座りながら目の前を行き来する人たちを観察する。みんな手に会場の地図を持っている。その地図にはたぶん今日行くべきブースの場所が記されているのだろう。その地図と、壁や柱に貼ってあるブース記号を、見比べながら足早に前を通り過ぎていく。まるで、ここ1番のときの勝負師のような、これで負けたら帰りの電車賃もないぞ、というような目をしながら、みんな歩いている。目の前に、さっき壁際に並んでいたのと同じブースの人たちの行列が出来ている。3人づつ列になり、最後尾の人はブース記号とサークル名の入った「最後尾はここです」看板を掲げ持っている。その看板の後ろに並ぶ人が来ると、なんの言葉もなく、手から手へと看板が後ろに回っていく。運動会の玉送りのような、よくできたリレーのような、はじめて会った人たちとは思えないスムーズさで後ろに送られていく看板。その奇妙なおかしさに、ナンダロウさんと2人で驚きつつ笑う。
午前中はこんな人たちを見ながら、たまに訪ねてくるナンダロウさんのお客さんと話しながら終わる。戻ってきたYさんと交代し、他のブースを見に行く。西のブースの端から端まで、ざっと見る。ジャンルごとにブースは固まっていて、鉄道、バス、自転車、などの乗り物関係、軍関係、オリジナル小説、評論、手作り小物、ヤオイ系、とざっと見る。量がありすぎて、この中のどれがおもしろくて、どれがおもしろくないのか、さっぱり解らない。ときどき立ち止まり、パラパラと立ち読みするが、買うかどうか決め手にかける。慣れない場所と人ごみにぐったりして自分のブースに戻ると、ナンダロウさんから東のブースのものすごさを聞く。せっかくならばと東を見に行く。
東、と書いてある誘導看板を見ながら、というよりは、東を目指す人の波にそのまま乗りながら、押されるように歩いていく。長い長い通路をどこをどうやって抜けてきたかわからないまま、途中でゲンナリしつつも、もう引き返すことはできません、な波に乗り、東に運ばれて行く。歩いている人、ほとんどが男。なぜなら目指す東ブースはエロなのだ。途中で、コスプレ会場と東ブースに道が分かれていて、コスプレに興味もあるものの、とりあえずエロを目指す。そして、着いたそこは、西とは比べ物にならないほどの人混みと、ドグラ・マグラが渦巻く世界。脳内でチャコポコチャカポコが鳴り出している。二次元エロの渦と、それを求めてやってくる男達の熱気に、1周もしないうちにダウンする。そそくさと逃げるように東ブースを後にする。気が向いたら帰りにコスプレ会場も見ようかなという、来る前までの考えが吹き飛ぶ。大人しく、自分の西ブースに帰る。こんなにあからさまな欲望を目の当たりにしたことがない。心のどこかで、負けました、という声がする。
西に戻ると携帯が鳴る。遊びに来てくれた退屈君からで、ブースの場所がわからないというSOSな電話。今どこよ、と言うと、あの事故のあったエスカレーターの辺り、と今朝の私とナンダロウさんの会話そのままの再現。仕方がないので迎えに行く。そこには来るだけですでにぐったりしている退屈君の姿が。途中でもうやめようかと思ったとブツブツ言う退屈君をブースまで連れて行く。
午後は、ナンダロウさんの案内で西のお薦めブースを見たり、ときどき遊びにきてくれるお客さんと話たりして、時間が過ぎる。
閉館は4時だけれど、ギリギリまでいると帰りが大変なことになる、というナンダロウさんの助言で、早目にかたし、3時半にはコミケ会場を後にする。会場を出るときに、コスプレ会場から出てくるコスプレイヤーの人たちとすれ違う。エスカレーターから降りてくる人たち全てがそうで、ものすごいおもしろい格好をしているのに、それが何のコスプレなのかがわからない。悔しいような、そうでもないような。すれ違った中で一人、スクール水着の女の子がいた。こんな場所でも一瞬、ぎょっ、とする。すげー、と言いながら眺めていると、退屈君がぼそっと、あのコお腹の部分に「まぐろ」って書いてありましたよ、と教えてくれる。まぐろ?まぐろって、あのまぐろ、それとも違う、まぐろ、なの?そもそもそれは何かのコスプレなの、それとも違うの、わからない。でも、ものすごく着飾ったコスプレよりも、このスクール水着の女の子の破壊力の方が勝っていて、コスプレに関しては、かけた金額と破壊力は正比例しないものなのね、と知る。
これもまたナンダロウさんのお薦めだという、水上バス竹芝桟橋まで行く。久しぶりの水上バス。小雨と曇り空で見晴らしは悪いけれど、海の上をゴンゴン進んで行くのが気持ちがいい。水上バスに乗っているのは、コミケのお客さんか参加者のどちらかで、それなりの混み具合。桟橋に到着する間際のアナウンスで、コミケ対策か、というような声のアナウンサーの女の子が何か言い間違いをしたらしい。一瞬、どっ、と船内が沸き、笑いと拍手が起こる。このアナウンサーが何を言ったのか、聞き取れなかったことが、とても悔しい。
竹芝桟橋に着き、雨の中、浜松町まで歩く。駅を越えたところにある居酒屋で、みんなでいっぱいやる。あー、生ビールがうまい。あー疲れた、おもしろかった。次回は、冬コミですな。あれ、本気でやりましょうか、ナンダロウさん。