断片日記

断片と告知

恐ろしい町

夕方、副都心線に乗って渋谷へ。センター街そばの銀行に入る。お金をおろそうとATMに近づくと、ビービーとなにやらけたたましく鳴り響いている1台がある。見るとカードの差込口にキャッシュカードが刺さったままになっている。忘れ物だ、銀行の人を呼ばないと、とATMに付いている電話の受話器を持ち上げる。呼び出しコールが数回鳴ったあと、受話器の向こうで係りの人の声がする。あの、キャッシュカードが刺さったままになっているんですけど、と訴えると、そちらのカードに書いてある銀行名はどちらでしょうか、カードの下に明記してある番号を読んでいただけますか、カードに印字してある名前もお願いします、と質問攻めにあう。こういうものは、電話すれば奥から銀行員が出てきて、受け取ってくれてそれで終わりかと思っていたら、どうやら違うらしい。そして最後には、壁についている箱の中にそのカードを入れておいてください、でその電話は切れた。箱ってなんだ、とATMが並んでいる壁の端を見ると、牛乳箱のような、目安箱のような、小さな白い箱が壁に固定してある。キャッシュカードって、かなり大事なものだと思うんだけど、こんな箱に入れてそれで終わりでいいのか。手渡しとかにしないと不安なんだけど、とぶつぶつ考えつつも、だんだん係わり合いになるのが嫌になってきたので、そのまま小さな箱にカードを滑り込ませて、その場を立ち去る。思えば、あんなにビービーとATMが鳴り響いているのに係りの人が出てこなかったのも、周りにいたATM利用者が何もしなかったのも、最後があんな箱に入れて終わりなのも、渋谷ではよくあることだからですか。あのカードは忘れ物なんかじゃなくて、センター街でカツアゲされた犯罪の香りのするカードだったりするんですか。渋谷では当たり前の光景で、いちいち出て行かなくても、箱に入れておいてね、でオッケーな感じなんですか。なんて、なんて、恐ろしい町なんだ、渋谷って。と妄想を爆発させながら、打ち合わせの場所へと急ぐ。