断片日記

断片と告知

陶芸家

しばらく前の日の出会で、ふりかけ飯をもぐもぐと咀嚼していたとき、口の中でカチリと音がし、歯の詰め物が取れた。歯の穴の中に食べたものが詰まる不便さと、電話予約して歯医者に行く面倒さを天秤にかけ続けて2週間たった。もうそろそろ行ったほうがいいんじゃないの、と他人事のように自分に言い聞かせ、やっと歯医者に行く。たいして待たされることもなく、呼ばれて椅子に座り、あぁなるほど、と歯の穴を見られ、外れた銀をまたカチリとはめてくれる。あっけなく、760円払って、終いとなる。もっと早く行けばよかったと思わないでもないが、くだらないことをどうしようと逡巡する日々も嫌いではない。
夕方、雑司ヶ谷のアトリエ空心へ行く。アトリエ空心は陶芸家の五月女寛さんの自宅兼仕事場であり、年に1度「アトリエ空心祭」として、自宅を開放し個展をされている。雑司ヶ谷の古い民家を改造して作られた家のあちこちに、五月女さんの陶器が飾られ、2階の仕事場には、陶器の色見本が壁一面に貼られ、木造の家なのに、五月女さんが作った陶器の家の中にいるような気がしてくる。おもしろい場所には、おもしろい人たちが集まってくる。また、ぱちり、とパズルのピースのはまる音がする。
Hiroshi Saotome