断片日記

断片と告知

銀杏と死体

昼飯を食べてからマルプギャラリーへ行く。途中、近くの図書館に寄る。お客さんがいない時にギャラリーで読む本、「日本の名随筆」シリーズの、散歩、と、古書Ⅱ、を借りる。短篇でアンソロジー、細切れの時間に読めて、知らない作家に出会えるのがいいと選んだ。借りた本を鞄に入れて、緑道を歩く。ギャラリー近くの大きな銀杏の木に足場が組まれ、数人の男たちが作業をしているのが見える。はらわれた枝が束ねられ、緑道に積まれている。余計な枝をはらうだけなのか、切り倒すのか。胸の中に不安が灯る。何十年も何百年も枝を伸ばし幹を太くしていった木々は、木というよりはもはや「誰か」で、その切り倒された姿は死体のようで、目にするたびに苦しくなる。
ギャラリーの人たちに挨拶をして、今日は寒いから、と暖房をつける。平日の午後、誰も来ない数時間、借りた本を読んで過ごす。普通の民家の普通の部屋を改装して作られたこの場所は、思った以上に本を読むのに向いている。まずは、散歩、から。知っている作家も、知らない作家も、最初の1〜2ページを読む。そこまで読んで面白ければ読み進め、頭に何も入ってこなければ飛ばして次の作家を読む。自分の頭に合わせた楽な読書は、するするとすべるように進んでいく。読んでいる間も、ブィンブィン、と木を切る音が聞こえてくる。音の短さ軽さで、太い幹ではなく、細い枝をはらっているのが解る。その音も、夕方にはやんだ。
日が暮れてから、仕事帰りにギャラリーを訪れる人たちが増え、本を読む手がぱたりと止まる。初めての人も、久しぶりの人も、よく会う人も、時間を割いてここまで見に来てくれたことがうれしい。19時過ぎ、ギャラリーの人たちに挨拶をして外に出る。緑道に立ち、銀杏の木がまだそこにあるのを確認する。