断片日記

断片と告知

歩きながら飲む

アトリエで絵を描き、高田馬場までなんとなく歩き、ビックボックスの古書市をのぞき、西早稲田駅から副都心線に乗る。明治神宮前駅で降りる。オーパギャラリーでHITOさんの個展「メモ」を見る。フラミンゴが3羽立ち話をしている絵がある。これが一番好きだと、HITOさんに伝える。これ最後に描いたの、動物園で見たのを思い出して、そうだ描いてやろうって。力んでいたものが、ふと、軽くなったときの絵。余計なものが絵の中にも感情の中にもなくなったときに出来た絵は、なぜかとてもいい。
青山霊園を通り抜けて六本木まで歩く。墓地の濃い緑の向こうに東京タワーが見える。東京の灰色と藤色を混ぜたような空の下で、オレンジ色に光る東京タワーはとてもきれい。六本木某所で打ち合わせ。打ち合わせが終わり、挨拶をして外に出る。すぐそばの酒屋に入り、オリオンビールを1缶買う。終わったらとにかくすぐに飲もうと、打ち合わせの前から心に決めていたのだ。昼から何も食べていない胃にビールがしみていく。地下鉄に乗って帰ろうかと思ったが、心がもう少し歩けと言う。ザワザワと消化しきれない何かがあるとき、私はいつも歩いている。乃木坂を少し過ぎたあたりのオフィスビルの前で、不思議なオブジェを見る。NHKピタゴラスイッチのような、ワイヤーの中をボールが転がっていくオブジェ。ワイヤーの中を通ってきたボールは、シーソーのような板の上を転がり、あるものは右にあるものは左に振り分けられ、木琴を鳴らし、シンバルを鳴らし、またワイヤーの中を回っていく。ビールを飲みながら、ずっと見ていた。床に、着地に失敗し、ワイヤーの中に戻れなくなったボールが2つ落ちている。ザワザワが少し減った気がした。缶ビールをもう1本買う。飲みながらまた歩く。たった2本の缶ビールで、私は少し酔っている。