断片日記

断片と告知

ノラ

家とアトリエとの往復の日々に少し飽きる。たまには早稲田を経由してアトリエに行くか、と神田川へ向かって坂を下り、神田川を越えてまた坂を上る。早稲田通りの酒屋でウーロン茶のペットボトルを買い、古書現世のパロパロ向井に差し入れる。店猫ノラは、番台横の積み重ねた本の上でぐったりと寝ている。毎年冬と夏に1度は死にかけるけどまた復活するんだよ、とパロパロ向井が言う。ノラは20歳を越えている。そろそろ尾が2つに割れて、猫又になってもいいのではと思う。猫又になれば、何百年でも生きられるし、人語も話すし、誰かを食い殺せばその人に成り代わることもできる。ノラがじっとこちらを見て何かを訴えている。タオルがずれて嫌なんだよねー、と言いながらパロパロ向井がノラの体の下のタオルを真っ直ぐに伸ばしている。すでに猫又なのかもしれない。