断片日記

断片と告知

女の酒

待ち合わせは夜の7時だが、少し早めにアトリエを出る。池袋から丸の内線で後楽園駅まで。そこから歩いて神保町の三省堂書店を目指す。待ち合わせの場所より離れた駅に少し早めに降りたのは、歩きたかったからだ。ゆっくり、だらだら、ぼうっと歩いて、街を眺めたかった。そんな日がたまにある。
東京ドーム横の遊歩道を歩く。観覧車のネオンが空に丸く浮かんでいる。風に飛ばされた噴水の水からは塩素の匂いが漂ってくる。なにかのライブがあるのか女の子たちが長い列を作っている。水道橋駅の高架下をくぐる。いつもいるおでんの屋台は今日はまだいない。いつもいるベビーカステラの屋台は今日も出ている。甘い匂いが漂ってくる。この場所で、毎日どれくらいの人たちがカステラを買い、どれくらい売れれば生きて行けるのか。
イマドキのラーメン屋と居酒屋ばかりが増えた白山通りを神保町の交差点に向かって歩く。交差点のだいぶ手前で電話が鳴る。まだ待ち合わせの30分以上前、もう着いたよ早いでしょ、と待ち合わせの相手Aさんは、電話の向こうで笑っている。先を越したと思っていたのに先を越されていたのが可笑しい。
三省堂書店の4階で立ち読みしていたAさんと合流し、ヒナタ屋に行く。ビールで乾杯し、チキンカレーを食べる。今日のお目当ては、チキンカレーは当然として、今月25日まで開催しているアフリカフェアだ。谷中にあるアフリカ雑貨屋タムタムさんがヒナタ屋の棚を借り、アフリカの布、バック、アクセサリーを販売している。Aさんは、水牛の角で作った指輪を気に入り指にはめている。獲ってはいけない動物の角じゃないですよね、と確認しながら買うところが、なんともAさんらしくて好きだ。
もう少し飲みたいね、と食堂アンチヘブリンガンに飲みに行く。カウンターに座り、ワインを飲む。さっきしっかりカレーを食べたのに、つまみにカポナータと春菊のパスタを頼む。こうして他愛もない話をしながら、だらだらと食いだらだらと飲むのは、とても楽しい。だらしなくいつまでも飲む酒は、女同士に限る。