断片日記

断片と告知

竹輪

たまに行く豚カツ屋の横には広めの駐車場があり、野良猫たちの溜まり場になっている。或るとき見れば、子猫たちが4匹か5匹か、車の間を駆け回り、落ちていたペットボトルのキャップを前足で転がしては追いかけ遊んでいる。そばにいる母猫は、どしりと寝転がりながらも、子猫たちを常に目で追い、乳房に向かって駈けて来る子がいれば胸を開き乳をやっている。それは幸せな風景で、豚カツを食べに行くたび、そばを通るたび、足をとめて猫たちを見るのを楽しみにしていた。
いつからか子猫たちの姿を見なくなり、豚カツ屋の女将さんに訊ねてみれば、巣立ったわよ、とあっけなく言われる。4ヶ月くらいでいなくなるわねいつも、とこの場所で何十匹もの猫たちを見てきた女将さんは言う。寂しがる私に、そこの郵便局の横の路地にも子猫がいるわよ、と教えてくれる。見に行けば、駐車場にいた子猫よりもさらに小さい、丸まればソフトボールくらいの大きさしかない猫たちが5匹、ちょこんといる。
また別の日、ソフトボール子猫たちに竹輪を放るおばさんを見る。はじめて見たのか食べ物と気づかず、匂いをかいで後ずさる子猫たち。その子猫たちに、どうして食べないのよ、とまた竹輪を放るおばさんを、その横に立ち見つめる私。そのまま豚カツ屋に立ち寄ると、ソフトボール子猫たちの母猫が交通事故で死んだことを聞かされる。まだ小さいのに、と嘆く私に、あー見えて強いのよ、大丈夫よ、餌やる人はたくさんいるから、と笑いながら女将さんは話すが、頭にはさっき見た竹輪婆の姿しか思い浮かばない。