断片日記

断片と告知

祝いの日

前日のブログに書いたように、朝はゆっくりと起きてまったりと「みちくさ市」を楽しもう、そして午後からは友人の結婚式に行くのだわとても楽しみ、と朝寝を満喫しているところに、「みちくさ市」の打ち上げをやる居酒屋の電話番号を教えろ、という嫌がらせ兼結婚式午後からならお前も手伝えこのバカヤロー、という怒りの電話で起こされる。今日はスタッフの頭数には入っていなかったはずでは、という言い訳は通用せず、そそそ、と仕度をして第2みちくさ案内所へ向かう。朝から居ました、という顔をしてスチール椅子に座り、文庫・新書コーナーへ誘導するPOPを描く。いかにも仕事していますワタクシ、という雰囲気を漂わせながら。
第2みちくさ案内所は、けやき並木の入り口にあり、紅葉したけやきの葉がひっきりなしに降ってくる。その下で、天気のいい日に古本を売るのは気持ちがいいな、と遅刻のことは棚に上げて思う。立石書店ブルゴーニュ岡島が買ってくれた、おにぎりと焼き鳥も、普段食べるよりも「みちくさ市」でみんなと食べるほうがずっと美味しい。正面を見ると、都電の線路の向こうは道いっぱいのすごい人で、踏み切りが開くたびに、人も車もこちら側に溢れ出してくる。鬼子母神の「手創り市」に行く人、帰る人も加わり、今までで一番の人出じゃないかしら、とうれしくなる。
今日の「みちくさ市」はあまりにも気持ちがいいので立ち去るのが少し惜しいが、結婚式の時間が迫る。2時には「みちくさ市」を後にして、着替えのために一旦家へと帰る。さっきまで路上で焼き鳥を食べながら古本を売っていたのに、今は黒いワンピースを着て踵のある靴を履いている。心がうまく切り替わらないまま、ふわふわと、慣れない靴で西池袋の自由学園明日館まで歩いて行く。明日館は、フランク・ロイド・ライト設計の、今は重要文化財に指定されている洋館で、この明日館を借り切って、友人の結婚式はおこなわれる。
元同僚たちと4人で受付係りをする。数年ぶりに会う人たちばかりなのに違和感なく話せるのは、みんなの年の取り方がうまいからかもしれない。ご祝儀をいただく係り、ご記帳をお願いする係り、チェキで参列者の写真を撮る係り、と分かれまめまめしく働く。古くからの友人の大切な日に、少しでもなにかの役に立てることがとてもうれしい。参列者全員が揃い、受付から開放され、控え室で式の時間を待つ。置いてあった新郎新婦のアルバムを見る。子供の頃、学生時代、同じ職場で働いていた頃、そして今の2人の写真が年代順に貼られている。同僚時代の写真には、まだ20代の私も一緒に写っている。どの写真にも何かの飲み会で怒涛に酔っ払う私がいて、10年前から何ひとつ変わってないではないか、と友人の思い出アルバムで自分の人生への駄目出しをくらう。
式をおこなう、道を挟んだ向かい側にある講堂へ移動する。白い薔薇が飾られた席に座り静かに待つ。後ろの扉から、ドレスを着た新婦が父親と腕を組み、正面の新郎のもとへゆっくりと歩いてくる。新婦は、式のはじめから泣いている。新郎は、そんな新婦をはじめから終わりまで優しく支えている。人前式なので、参列者の前で結婚を誓い、指輪を交換して、式は終わる。
明日館へ戻り、参列者全員で新郎新婦を囲んだ集合写真を撮り、その後、食堂で披露宴がおこなわれる。昔ここが学校として機能していた頃の、子供たちがここで食事をしていた頃の、木のテーブルと椅子が今も大切に使われている。だからなのか、この小さな木の椅子に腰掛けると自然と背筋が伸びる気がする。それなのにボーイさんにお飲み物はと聞かれ、テーブルに瓶ビールがならんでいるのを散々見ておきながら、ナマで、とつい答えてしまい、背筋は伸びたのに気は弛み仕様もない日常がこんなところで顔を出す。申し訳ございません瓶ビールしか、と言われて動揺する私に、隣りに座る元同僚のイトウさんは、ムトーさん大丈夫です私も弟の披露宴で梅割りを用意させましたから、とにこにこと話し、ナマと梅割りどっちもひどいね、と2人で笑い合う。
新郎新婦が正面の席に着き披露宴がはじまる。ふと隣りのテーブルを見ると、受付を一緒にやった元同僚のヨシカズが号泣している。新婦や新婦側の友人が泣くというのはままあるが、新郎側の男友達が号泣しているのなんか見たことがない。あんたがなんで泣いてんのよ、とヨシカズに声をかけた途端になぜか自分も泣けてきた。新郎新婦の2人とも、大きな書店で働いていた時からの友人で、知り合ったのは新郎が先。何かにつけて仕事帰りによく飲み歩いた。すごくかわいい子が4階にいるんだ、という話しから、付き合うまで、付き合った頃、本屋を辞めて別の仕事をやるまでと、2人の10年を見てきたことがこの涙の訳か。その10年の中に、自分の10年も見て泣いたのか、よくわからない。
チェキで撮ってもらった私の顔写真には、新郎新婦への言葉として、誰よりも幸せになれ、と書いて渡した。