断片日記

断片と告知

話の方程式

雨の中、千駄木の「古書ほうろう」へ、トークショー「本を売るだけが古本屋の仕事じゃない!?」を聞きに行く。酒持ち込み可、とブログに書かれていたのを思い出し、途中のコンビニで缶チューハイを2本買う。腹の足しにとおにぎりもひとつ買う。開場を待ちながら、外で立ったままおにぎりを食う。集まってくる人々を見れば知っている顔ばかりで、今日はトークショーというよりも、谷根千、おに吉、わめぞ、の合同忘年会なのでは、という思いが頭をよぎる。7時近く、瀬戸さんが入場してくる。顔が真っ赤なのは、緊張しているからと、すでにどこかで飲んできたからと。
7時に開演。音羽館の広瀬さんと瀬戸さんの自己紹介とでトークショーがはじまるが、瀬戸さんふと立ち上がり、そばの棚に置いてあった「晴ーリー」を胸に抱く。それは何、とナンダロウさんに聞かれ、照る照る坊主です、と答える。屋外でイベントをすることが多いから、雨が降るとみんなが憂鬱になるから、その鬱憤をぶつけるためのものです、と続けて答える。それは照る照る坊主じゃなくてもっと身代わりとかなにかの、とナンダロウさんが突っ込むが、すでにそこから瀬戸ワールドははじまっていた。
瀬戸さんの話は方程式だ。瀬戸さんだけはXの値もYの値も答えも知っている方程式を、知らない我々は、瀬戸さんの突拍子もないように聞こえる言葉からヒントを探し、少しずつ値を埋めていき、最後にぴたりと合った瞬間に、そういう事だったのかとうなずくしかできない、解ってみれば極めてごもっともと思う、そんな方程式だ。順を追って話せばもっと解り合えるところを、瀬戸さんはそれをしてくれない。どこか違う場所に飛んでは戻りを繰り返し、何の話しをしていたのかが解らなくなり、そして唐突に戻ってきては、なるほどと思わせ、またどこかへ飛んでいく。淡々と話す広瀬さん、飛んでは戻りを繰り返す瀬戸さん、その瀬戸さんをブレーキをかけながらも押さえきれず、怒るよりも笑ってしまっているナンダロウさんの、文字通りの三人三様さが面白い。
広瀬さんの「高原書店」時代の話、瀬戸さんの「古本大学」時代の話、「古本大学」の社長さんがしていた出版業の話、独立して開業するまでの、そしてしてからの話。どれも具体的で興味深い。修行した店の影響を受けるかどうか。反面教師にするという広瀬さんと、古本大学の社長が大好きでその影響を受けまくる瀬戸さんと。もっと店が広かったら何を兼業するか。普通にCDを売るという広瀬さんと、不動産屋をするなぜなら引越しをするときには本を処分するからという瀬戸さんと。なるほどと思わせたその後に、さらに精神病院、さらに宗教法人、と続け、また瀬戸さんはひとりどこかへ飛んでいく。最後に5年後の古本屋はどうなる、というナンダロウさんの質問に、蛍光灯がLEDになる、とパンフレットを見せながら説明する瀬戸さんの飛んだ言葉でトークショーが終了する。
終了後、「古書ほうろう」内でそのまま打ち上げとなる。酔った勢いで広瀬さんの胸を揉む。きゃっ、と両手を胸の前で合わせる広瀬さんを見て、「わめぞ」にはない新鮮な反応に萌える。11時過ぎまで飲み、さらに「わめぞ」民は目白に移動し、そこでもまた飲む。今日のトークは熱すぎた。みんなどこかやられた顔をして、火照りを中和させなくてはと酒を飲む。