断片日記

断片と告知

炬燵と夕めし

料理研究家が書いたものではなく、それ以外の人たちの書いた料理の本を見るのが好きだ。この人はこんなものを食べているのか、作っているのか、とページから透けて見える生活を見て楽しむのが好きだ。宇野千代料理本高峰秀子料理本檀一雄料理本、料理よりもその人そのものがそこにある。
ここ数日のお気に入りは、『わが家の夕めし』(朝日文庫)。帯の文句には、「有名人100人の食卓風景」とある。料理のレシピは載っていない。見開きにふたつの家族の夕飯風景、その裏にそれぞれの家族のコメントが載る。昭和40年代から50年代、家族全員で炬燵を囲む、火鉢が傍らにある風景が、見ていて懐かしい。檀一雄のページを見る。テーブルの上には檀一雄が作ったと思われる大皿料理が並び、真ん中に檀一雄、その両脇にヨソ子夫人と子供たちが並ぶ。檀一雄以外の家族の表情が暗くうつむいて見えるのは、『火宅の人』だと思うからか、気のせいか。そして檀一雄のコメント、「もし、この地上どこであれ、落下傘で降下させられたとする。そこに人間の喰らうに足る何物かの素材があるとすれば、その素材を駆使して、一番おいしく喰べ、一番愉快に生き延びられるのは、私だという奇妙な自負がある。」を読み、檀一雄らしいとうれしくなり、こういう人を旦那にし父親にした家族の暗い顔をもう一度見る。