断片日記

断片と告知

ぽつり、と在る

北浦和の埼玉県立美術館で、企画展「小村雪岱とその時代」を見る。資生堂時代デザインした香水瓶、泉鏡花と出会って生まれた装丁の数々、「おせん」「高橋お傳」等の連載小説の挿絵、いずれも楚々として無駄がない。同時代の作家として紹介されている竹久夢二の絵が、並べて見れば重くバタ臭く見えてしまうほど。「昭和の春信」と言われた人物画も美しいが、着物から突き出た肘や膝のくにゃりと折れ曲がった様が、骨のないゴム人形の手足のようで面白い。しかし何よりも目を惹くのは人物の描かれていない空間で、開け放った障子の向こう、畳の上に三味線と鼓が並んで置かれ、絵の全面を芽吹いたばかりの柳の枝が覆っている様は、本当に美しい。雪岱の描く絵は、ぽつり、ぽつり、と何かが画面にあり、それは楽器だったり、鳥だったり、花だったり、橋だったり、人だったりするのだが、どれに対しても比重が同じで、画面の中を目が泳ぐ。2月14日(日)まで。
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