断片日記

断片と告知

桜と雨

朝から曇りでそのうち雨が降り出した。雨天中止にもできたはずだが、そうしたくなかった。雨天決行の宣言をし、公園に下見に行き、今夜の花見の買出しに行く。ブルーシート、紙皿、紙コップ、鍋の中身の野菜とワンタン。全ての荷物を抱えて、古書往来座に向かう。閉店まで店番の王子に缶チューハイを差し入れする。手伝いを頼んでいた瀬戸さんと話していると、「HB」の橋本君と、暇なら早く来い、と呼び出したU-SEN君がやってくる。男3人に荷物を持たせ、おのおの酒を片手に飲みながら歩き、花見会場の公園を目指す。途中、ひぐらし文庫に寄り原田さんにカセットコンロを、キク薬局に寄り会長が用意してくれていたテントを、借りる。
会場の雑司ヶ谷公園は、満開の桜が頭上を覆い、散った花びらが地面を染める。テントを設営し、その下にブルーシートを敷き、カセットコンロとつまみを並べ、誰かがやって来るのを待つ。料理上手のうーちゃんが、ふきのとうの天ぷらと竹輪の天ぷら、肉と玉子の煮込み、野沢菜のサラダを持って登場する。料理上手の君が来てくれて本当によかったさっそくよろしく、と着いたばかりのうーちゃんに大鍋を託し、鍋奉行をお願いする。公園の水飲み場の蛇口から、不器用に鍋に水を入れる瀬戸さんの姿が笑いを誘う。洗いもせずその場で引き千切った白菜、ワンタンに餃子、カット野菜と豆腐、豚バラ肉にソーセージ、少しずつ集まり出したわめぞ民が買ってきた食材を、うーちゃんが味付けしてくれた鍋に放り込む。煮立ったものを一口すすると、中華風の味付けの、野菜と肉のダシが出た、絶妙のうまさ。キャンプのときのカレーのように、非日常の場所で作る飯のうまさかもと一瞬思うが、私が作れば同じ場所で同じ食材でもこうはならず、こんな場所でも発揮されるうーちゃんの料理の腕の確かさ。
少なくなった鍋に、ピッポさんが買ってきたインドカレーを混ぜてみる。カレーうどんの汁をもっと薄くしたような、それでいて日本のカレーとは違うどこかスパイシーな味付けが、残った鍋のスープとよく合う。絶妙な配合のこの汁を、奇跡汁、と名づけてみんなで最後まで飲み干す。
鍋ののる、カセットコンロの火を囲むように輪になり座れば、思ったよりも寒くない。岡山の蟲文庫さんからの差し入れの日本酒の入った紙コップに、風で飛ばされた花びらが浮かぶのもいい。雨の中、10人以上も集まる物好きなわめぞ民は愛おしい。弱く降り続いていた雨は、花見が終わる頃にはやんでいた。