断片日記

断片と告知

朝日湯

飲む前に風呂だろ、と銭湯「朝日湯」へ行く。「朝日湯」は、アトリエのある小学校の正門から徒歩20歩で着く、私の日常に一番近い銭湯だ。近いくせにいままで行かなかったのは、ビルの中にあるイマドキの普通の銭湯に見えるからで、いつでも行けると思いながらだからこそ行かず、アトリエに通いはじめて数年経った今日はじめて暖簾をくぐる。
ビルの中のイマドキの銭湯に見えるが、1階にデイサービス、2階に銭湯というのが珍しい。コインランドリーがないかわりに、2階へあがる外階段のあちこちに洗濯機が置かれているのも珍しい。下足箱のある玄関を抜けると自動扉があり、その向こうにフロントがある。正面にフロント、フロントの右手が男湯、左手が女湯、左手のさらに奥にテレビとソファの置かれたロビーがある。女湯と男湯の入り口には暖簾がなく、便所の入り口に貼るような、ワンピースのシルエットの赤い女、スーツのシルエットの黒い男、のプレートがぺたりと2箇所に貼られているのが面白い。
脱衣所に入る。島ロッカーがひとつある。ぶら下がり健康器、赤いお釜の髪乾燥機、マッサージ椅子、体重計、が壁沿いのロッカーの間を埋めるようにして置かれている。建具も、この健康器具たちも、どことなく古くかわいらしく、なぜかアトリエのある小学校を思い出させる。
洗い場に入る。島カランが2列。正面奥に広くゆったりとした湯船がひとつ。湯船の右奥には泡風呂、真ん中にはジェットがついている。広い湯船の左側には1畳ほどの小さな湯船もあるが蓋が打ち付けてあり入ることができず。正面の壁にはタイルを砕いて作ったモザイク画あり、まっすぐではなくどこかよれた線が、子供たちが折り紙をちぎって作った貼り絵のようでかわいらしい。湖に白鳥が3羽、その後ろに大きな山と空がある。どこの景色とも描いていないが、なんとなく日光の中禅寺湖ではないか、と勝手に思う。タイル絵のほぼ真ん中になぜかパネルが打ちつけられており、タイルが剥離したのか、ぽかりと白く抜けたその空間だけが勿体ない。男湯と女湯を仕切る壁には熱帯魚のタイル絵がある。柱には小さな長方形の黒いタイルがみっしりと貼られている。この銭湯の外観の普通さと、この洗い場のタイルのかわいらしさ、その差にぐっとくる。
中華料理屋でAさんと飲む。銭湯のあとの生ビールはことさらうまい。銭湯の外見と中身の差に惹かれるんだよね、と「朝日湯」の話をすれば、人間もそうだよね、とさらりと返される。
朝日湯