断片日記

断片と告知

田端駅南口徒歩2分

山手線の田端駅、ホームの端の西日暮里寄りの階段をのぼると、ふたつしかない自動改札の、小さな南口に出る。小さな改札を抜けると左手下には線路、正面の空にはスカイツリーと視界がひらけ、右手には細く急な石段がのびる。石段をあがると桜並木の道に出る。この場所を知っている。谷根千からの帰り道、もう少し歩きたいと思ったとき、西日暮里から線路沿いを歩いてくるとぶつかる、あの道だ。ここに出るのかと、頭の中の地図が繋がる。ぶつかった道を越えてさてどこかしらと見回すと、正面の道にすぐ、古本の並ぶ均一の箱が見える。探すまでも迷うまでもない、ここが「古本石英書房」だ。
石英書房さんにはじめて会ったのはほぼ1年前の「みちくさ市」。その頃はまだ実店舗はなく、今年の3月に田端駅南口そばにこの店が出来た。ポポタムでの個展「曇天画」にご来場いただき、曇天画の習作、の絵を買っていただいた。額装した絵を届けることをいいわけにして、明日から夏休みに入るという石英書房さんをはじめて訪ねる。
外の均一箱をのぞいていると、店の中の石英書房さんと目があった。どうも、と声に出さずに頭を下げて、引き戸を開ける。思ったよりも広い店内。店の建具は新しいが、店内の本棚はどれも古く味がある。本棚と本棚の間には、古い椅子や机、昔の雑貨が置かれ、一目でわかる、本だけじゃなく、古いものが好きなのだ、と。額装した絵を渡す。箱から出された絵をふたりで見る。さらりと描かれた曇天の絵に、さらりとした木の額がよく似合う。額を持って店内の、あちら、こちら、と飾ってみる石英書房さんを見ているとうれしくなる。レジからよく見えるという古い勉強机の上に置かれた曇天画。本と古いものたちに囲まれて早くも店に馴染みつつある。
石英書房さんが額を飾っている間、本棚を見る。猫、食、出版、絵本、美術、田端北区、とゆるく本が分けられて棚に納まっている。父の蔵書だった、という美術書と雑誌はどれもきれいで新刊のようだ。最近読んだ、木村衣有子さんの小冊子「味見はるあき」が面白かったから、もっと食について書かれた文章が読みたい、と雑誌「ノーサイド」の食特集を買う。
まだあまり手をつけていなくて、いずれはトークショーとかイベントもしたい。石英書房さんは、まだ小さなお子さんが3人もいて、それでも古本屋をはじめた人。少しずつ、やりたいことを形にしていく人。
石英書房さんが常連さんにいただいたという一枚の写真を見せていただく。志ん生が通っていた谷中の銭湯「世界湯」。その廃業し、解体しているところを写したモノクロの写真。脱衣所も洗い場も壊され瓦礫もどかされ、その奥に、富士山のペンキ絵のある壁だけが一枚残され、そそり立っている。ブログ「谷根千ウロウロ」さんの撮った「世界湯」の写真もすごいと思ったが、これはまたものすごい。転載禁止ということで、この写真は石英書房さんに行き見るしかない。そんな楽しみもある。
「石と古本 石英書房」の日々
谷根千ウロウロ:瓦礫の富士