断片日記

断片と告知

出来たばかりの本を手渡したいから、と出版社の名前の入る紙袋をさげて、Nさんは雑司ヶ谷に来た。袋から出てきたのは、7月に発売された阿刀田高さんの「闇彦」とその英語版で、今月開催された国際ペン東京大会2010で、国内国外の作家たちに配られるためだけにつくられた、和書洋書二冊がひとつの函に収まった、特別版の「闇彦」だった。
函の背にも正面にも、「闇彦」と、手描きの題字の箔押しが入る。文字のでこぼこが心地よくて何度も撫でる。函から英語版を出し、眺める。当たり前だが和書とは開きが逆で、中を見ればアルファベットの列が横に並んでいる。扉の裏には銀色のペンで書かれたエディションナンバー、その数の少なさに、わたしが戴いても良いのかとひるむ。函入りの本も、自分が挿画を描いた本が海を越えていくのも、書籍の挿画を描く人間にとって、夢のひとつではないだろうか。非売品とはいえ、それが一度に叶ってしまった今日。どこの本屋にも並ばない書影を載せて、ここでうれしさのお裾分け。阿刀田さん、Nさん、どうもありがとうございました。
2010-07-20 - m.r.factory