断片日記

断片と告知

捏造

先日のこと。短大時代の友人3人、先生ふたり、先輩ひとり、と渋谷で飲んだ。卒業してから20年近く経ったいまも、短大時代の友人たちと会い飲むのは、彼女たちが、誰かの誕生日だ、誰かの個展だと、何かにつけて連絡をくれるからで、今日渋谷で集まり飲むのも、友人のひとりが渋谷のバーでイラストの個展をしているからだ。バーに行く前にまず下地を入れてと、東急プラザ裏の安酒場に入った。
せまい座敷に7人がぎゅうと固まって座る。武藤は最近どうだ、と男先生に聞かれ、体力が落ちた白髪が増えた髪が薄くなった、と報告して笑われる。いくつになったんだ、とまるで子どもに聞くみたいな質問に、39です、と中年のわたしが答える。えーもう39か、と驚く男先生も、あと数年で還暦だ。
武藤の卒制って木彫りの屏風だったよね、と女先生に言われ、忘れていたというより消していた記憶が引きずりだされる。なんでグラフィック科の卒制で木彫りなんてしたんだっけ、と悩んでいると、お前はイラスト科だっただろ、と男先生に指摘され、自分の記憶の捏造が発覚する。短大の、教室とも言えない小さな部屋に、イラスト、エディトリアル、グラフィックの生徒10数人が机を並べ、イラストの男先生、エディトリアルの女先生、そして数年前に亡くなったグラフィックの男先生がそこに混じり、今日の座敷のようにぎゅうと座って日々課題をこなしていたのだ。そして記憶が混ざった。それにしても、なんでイラスト科で木彫りの屏風なのか、とその頃の自分のほとばしりの矛先が、今となってはまったく見えない覚えていない。あの屏風まだあるの、と女先生に聞かれ、家のどこかにはあると思うけど、と返事をしながら、誰かに言われなければ、屏風も記憶も都合よく忘れ都合よく捏造する、自分の頭のおめでたさを呪う。
友人が個展をしているバーに行く。アルフィーの高見沢さんのようなマスターが酒を作り、ぎょわーんとした音楽が流れ、とんがったギターが飾られ、豹柄のソファがあり、足元には甲斐犬が遊び、カウンターの上ではおでんが煮えている。そんな中、壁には友人の描いた極彩色の絵が並んでいる。酒を飲みながら、犬の頭をなでながら、友人の描いた絵を見続けた。