断片日記

断片と告知

ヒヨドリ

ヒヨドリはあとからやってきてほかの小鳥を追っ払う
憎らしいから石を投げてやる」
鳥が好きな母も、雀やメジロにやるように、枝に刺した蜜柑の輪切りに、ヒヨドリが来ると追い払う。蜜柑の刺さった枝の見える窓ガラスを丸めた手で、どん、と叩き、ヒヨちゃんだめ、と鳥に向かって言う。同じ鳥なのにといつも思うが、頭がぼさぼさで、ぎょえーと汚らしく鳴き、小鳥を蹴散らす少し大きな体が、ガサツで無遠慮に見えて嫌われるのかなとも思う。
嫌われもののヒヨドリを、好きだ、と言う人にひとりだけ会ったことがある。ワンルームの部屋のベランダから、細い道を挟んですぐ向こうに、街中にしては大きな公園が見えた。冬になると、公園の木々にヒヨドリが集まり、よく鳴いた。ヒヨドリはいい、頭がぼさぼさなのがいい、ぎょえーと鳴くのがいい、とこのベランダから何度も冬を見てきたワンルームの住人は言った。見ると、そう言ったこの人の頭もぼさぼさで、どこかヒヨドリに似ていた。蹴散らすつもりがなくても蹴散らしてしまうところも、どこか似ていた。ワンルームの住人がとても優しい人だったから、ヒヨドリも本当は優しい鳥なのかもしれない。平田俊子さんの詩、「邪魔な朝」を読んで、ベランダに並んでヒヨドリを見ていた昔を思い出した。