断片日記

断片と告知

風邪

前兆は下痢だった。何度か便所に行き、腹と背中に嫌な寒気があるなと思いながらも寝て、翌朝目が覚めると、寒気は全身に広がり布団から出られなくなった。ふだん、どんなに閑なときでも、起きて外に出て何かしているふりをしないと気がすまない貧乏性のわたしが、布団から出て便所に行くのさえ面倒だった。買い置きの風邪薬を飲んで、枕もとにペットボトルの水を置いて、ひたすら眠った。首に傷のある寝たきりの猫が頭に浮かんだ。こういうことかとぼんやりと解ったつもりになったが、目が覚めると何が解ったのかが解らなかった。寝ながら自分の体を触った。自分の皮膚のつるつるしたところを撫でていると安心する。本でも読もうかと頁をひらいたが、目と頭が文字をうまく追えなかった。ちゃんと寝てないとだめでしょ、と電話の向こうの人に怒られた。母が作ってくれたうどんを少し食べた。何度か寝て何度か起きた。久しぶりに、自分の体を甘やかすのが気持ちよかった。