断片日記

断片と告知

盛り合わせ

今日は「ふくろ」の半額の日ですよ、と王子が言うので飲みに行く。「ふくろ」は池袋の西口と東口にある大衆酒場で、毎月8日はつまみが全品半額になる。今日は半額なんだから、いつもと違うもっといいもの頼みなさいよ、と言われて食べた刺身の盛り合わせが美味しかったんです。道すがら、週に1度は「ふくろ」に行くという王子が、前回の8の付く日のやりとりを、楽しそうに話してくれる。それって今日も刺身の盛り合わせが食べたいっていうアピール?違いますよ、と笑いながら否定する。
半額の日の「ふくろ」は、いつも以上に混んでいる。席の空くのを待ちながら、背広の背中越しにカウンターに並ぶつまみを眺めると、みんな刺身の盛り合わせを食べているように見える。800円が400円になる盛り合わせを頼むことは、8の付く日の「ふくろ」の儀式なのかもしれない。しばらく待って、空いたテーブルに腰掛け、来る前まで頼むつもりもなかった刺身の盛り合せを、これが食べられるから今日は来た、と言わんばかりに注文する。4種類の刺身ののる大皿が出てくる。ムトーさん赤いの食べていいですよ。わたしが鮪好きなことを知っている王子が、何のためらいもなく、赤い刺身を譲ってくれる。