断片日記

断片と告知

一籠CD市

アトリエからの帰り道に古書往来座に寄ると、これから古書信天翁に行きましょう、と唐突に瀬戸さんが言う。夜10時までやっているという一籠CD市をのぞきに、日暮里まで、瀬戸さんとふたり山手線に揺られる。
日暮里駅に着いたのは夜8時過ぎ。いつも賑やかな夕焼けだんだんに、人影もなく、商店街のシャッターもすでにおりて暗い。見上げた先の、古書信天翁の窓だけが、赤くぼんやりと明るい。扉を開けると、吃驚したような笑顔で、山崎さんと神原さんが迎えてくれる。差し入れに持ってきた缶ビールとつまみを、瀬戸さんが差し出す。
本棚の天板の上に、CDの入った籠が並んでいる。それぞれの性格と好みがぎゅっと詰まった籠を、端から見ていく。店主の屋号に、知った名前もちらほらと見える。これ面白い。オッパイをパーカッション代わりにしている、とコメントに書かれたCDを、瀬戸さんがうれしそうに見せてくれる。
差し入れに持ってきた缶ビールを、結局自分たちで消費する。電子レンジで温めてくれたつまみをはさんで、古本に囲まれた小さな宴会がはじまる。あまり味方のいないボエーズを、神原さんが好きだと言ってくれてうれしい。組合に入るかどうかの話、組合に入らないでも魅力的な古本屋の話を、瀬戸さんと山崎さんがまじめにしている。ビールだけでは足りなくて、いつの間にか、ワインのボトルも空いている。
古書信天翁に来たら、行こうと決めていた飯屋「深セン」に行く。美味いと聞いていた、ラムとパクチーの丼を頼む。寡黙なお兄さんが鍋を振り、明るいお母さんがカウンターを切り盛りしている。流行るお店の要素があのお母さんには全部ある、と瀬戸さんが言う。炒めたラム、パクチー、玉ねぎののった飯を食べる。ラムに癖はなく、炒めたパクチーが絡んで美味い。
日暮里駅までの帰り道、人がいないのを良いことに、雪合戦をして歩く。ポストの上、車の上、塀の上、積もった雪を丸めて投げる。傘を楯にして飛んでくる雪玉を防ぐが、野球のうまい瀬戸さんの投げる玉をよけるのは難しい。あてられてばかりで腹が立ち、瀬戸さんの襟首を捕まえて雪を突っ込む。
一籠CD市は、2月20日まで。
古書信天翁12籠:http://www.books-albatross.org/
古書ほうろう8籠:http://www.yanesen.net/horo/