断片日記

断片と告知

慌てる女

先日、鍋屋横丁で用事を済ませ、そこから中野に出ようと歩いていると、大久保通りに出たところの小さな交差点で、若い女に話し掛けられた。すみません、中野駅はどちらでしょう。中野駅はどっちだろう、同じことを考えていたわたしは、交差点の向こうに見えた街路地図を女に教えた。信号が変わったとたん、女は走り地図を見る。地図を見る女の後ろからわたしも地図を覗き込む。大久保通りをまっすぐ、郵便局の先を曲がれば中野駅はすぐそこだ。携帯電話をひらき、女が誰かと話しだす。すみません、新中野と間違えまして、すみません、これからすぐ、本当にすみません。電話の相手は、取引先か、面接官か。スーツを着た若い女が大久保通りを中野駅に向かって走り出す。気づくと、女は道の反対側に渡っている。渡っていると思ったら、なぜか反対車線のタクシーを止め、乗るのではなく、中野駅はどっちですか、と叫んでいる。親切なタクシー運転手は後ろを指差し、この先の交差点を曲がれば、とかなんとか叫び返している。そこに中野行きのバスが来る。出ようとするバスを、乗ります、と女が叫び、止めている。女は間に合ったのか、間に合わなかったのか。3分くらいの間に起こった、大久保通りでの出来事。