断片日記

断片と告知

下北沢の猿

アトリエに人が来るときはたいてい夜で、飲み会で、ひとりふたりのときもあれば、アトリエが窮屈に感じるほど人が来るときもある。飲んだ日は飲み疲れて、皿やコップを流しに残したまま帰り、ゴミだけまとめて玄関に置く。
翌日のアトリエは酒と食べものの匂い。まず窓を開け、流しの洗い物から片付ける。豚肉のかたまりを煮た日は白いラードがこびりつき、何度洗っても皿がべたつく。小さな排水溝がよくつまる。べたつく皿を何度も洗い、排水溝につまる生ゴミを捨て、終わると床掃除をはじめ、少しずつアトリエが元に戻っていく。飲んだあと、毎回さっぱりと洗われていく、翌日のアトリエを見るのがとても好きだ。できれば毎日がゴミの日ならなおいい。
雑誌「なごみ」の2月号が届く。平田俊子さんの連載「気がかりな町」をまずひらく。平田さんの文章に、わたしの挿画が小さく寄り添う。平田さんが書く町を、後を追うようにしてわたしも訪ね、毎月絵に描く。そうして1月号では鍋屋横丁を描き、2月号では下北沢を描いた。
さっぱりとしたアトリエで、平田さんの書いた下北沢を読む。わたしの記憶の下北沢を、平田さんの見た猿が歩く。開け放たれたアトリエの窓から、いなくなった人たちと、猿がこちらを覗いている。
淡交社