断片日記

断片と告知

コロナの夏 7月10日から7月16日

7月10日金曜日

曇り、雨。納豆ご飯。昼のニュースで、品川駅で通勤中の人たちにインタビューをしている。「今日からイベントの入場者数が上限5千人に緩和されましたが、どう思われますか?」聞かれた通勤中の人たちは、まだ早いんじゃないですかね、などと律儀に答えていたが、どうしてこの場所で彼らにマイクを向けたのか、さっぱりわからない。往来座へ。Sの昼飯、ローソンで鶏天ちくわ天うどん、アイスコーヒーのメガサイズ。仕事の資料をセブンイレブンでプリントアウト。ポポ番へ、18時半まで。途中、HIちゃんから、いま副都心線で向かっている旨のラインが届く。明日かと勘違いしていたので、慌てて往来座へ向かう。引っ越し片付け中のHIちゃんからダンボール一箱分の買取り。HIちゃんと近くの升三へ。閉店後、Sも来る。亡くなったJちゃんとHIちゃんで組んでいたバンドでのオリジナル曲、シャッターを閉めないで。かなしい、ということばの重みの違い。

東京都の感染者数243人。M家泊。 

 

7月11日土曜日

曇り、雨。納豆ご飯。往来座へ。Sの昼飯、ローソンですだちおろしうどん、アイスコーヒーのメガサイズ。が、母屋の焼き鳥弁当が食べたかった、買う前に聞いて、うどんは後で食べるから、と言われ、頭にきてうどんは持って帰る。

仕事の絵。

夕方、うどん。

「沖縄の米軍でコロナ大規模感染を確認。複数施設で60人超との情報」のニュース。

夜、西友へ。夕飯は、ひき肉トマトのショートパスタ、薬味サラダ。プレステ2で「鬼武者」を最後まで。本編が短いが、終わると特典で鬼武者がパンダの着ぐるみを着て戦うゲームがはじまる。S家泊。

東京都の感染者数206人。

 

7月12日日曜日

晴れ。アボカド納豆ご飯。ハンバーグ師匠の動画。

仕事の絵。

夜、Sと車8号ちゃんで中仙道をほぼまっすぐ、浦和のMIくんちに配達。帰りも中仙道をほぼまっすぐ、サンシャイン通りブックオフ西友に寄ってから帰る。車中でSがでっかいステーキが食いたいと言ったので、安く巨大ななんとかビーフを買い、おいしい焼き方をネットで調べ、焼く。中くらいのフライパンにでかい肉を無理矢理2枚並べたので、肉汁がぜんぶ外に出る。オニオンスライス、冷奴。ブックオフで買った「鬼武者2」をやりはじめる。画像がきれい。三浦哲郎『完本 短編集 モザイク』のなかから「とんかつ」「めまい」をSが朗読。S家泊。

東京都の感染者数206人。

 

7月13日月曜日

曇り。かぼちゃベーコンクリームパスタ。Sの父親が入院している病院から電話。呼吸が、あと2〜3日かもしれない、と電話口からもれる。Sは父の関係者あちこちに連絡をしている。

車で、ガソリンスタンド、往来座に寄ってから、上板橋のSの実家へ。なんかいるものあるかなぁ?とSが聞くので、判子とかは全部上板橋にあるんだよね?と言うと、キノコ?と聞き返される。運転はさぁ首なんだよ、目じゃなくて、ギターも手首なんだよ、指じゃなくて、あ、どっちも首だ、とSは運転しながらいまじゃなくてもいい話をし続ける。何度も通った慣れた道だが曲がるところを間違え、止まるはずのところを止まらず、ときどき大きなため息がもれる。

Sの実家に寄り、ベルクスイトーヨーカドーでぶどうを買い、Sの父親が入院している病院へ。コロナで面会人数も時間も短縮されているが、2〜3日かもしれない家族は別らしい。入り口で検温、消毒、35.1度。4人部屋の入ってすぐ左手のベッドに、目を開けたまま、呼吸器をつけ、Sの父親は横たわっている。髪が伸び、痩せて、写真で見たことのある若いころの顔みたい。先に来ていた上板橋の仲間JUさんが、ベッドの横の椅子に座っている。JUさんとSと、目を開けたままどこを見ているのかわからないSの父親に向かって話しかける、が応答はない。医者に許可をもらい、つぶしたぶどうの汁をスポンジの先に染み込ませ、呼吸器をずらしたSの父親の、くちびるに、舌先にのせる。Sの父親は入院中に誤嚥性肺炎をおこしてから2年近く、口から水も食物もとってない。見舞いに行くと必ず、今日はなにか持ってきたか?ぶどうは持ってきたか?と聞かれ、嚥下のリハビリしたらね、リハビリしたらまた食べられるようになるからね、と言い続けた2年間だった。カーテンの向こう、隣りのベッドから若い女の見舞客の声。ミキちゃんがなかなか来られないけどお父さんによろしくねって。ミキちゃんがよろしくねって。聞こえてる?17時過ぎに一度、病院を出る。

車で雑司ヶ谷へ、Sの着替えを取りに戻る。髪切ろうかな、とSは言い、風呂場でバリカンで頭を刈りはじめる。途中で呼ばれ、刈り残しを刈る。車でまた上板橋へ。駅前のセブンイレブンイトーヨーカドーで時間をつぶし、仕事終わりに神奈川からかけつけたSの兄を上板橋駅前でひろい、一緒に時間外の病院へ行く。Sの兄は、まだ早いよなぁ、と独り言のようなことばを、後部座席で繰り返している。

昼間来たときと違い、病室に流れていたラジオも消され、ほかの入院患者たちの寝息が聞こえる。今度はSの兄がぶどうの汁を舌にのせる。Sの兄は指で父のまぶたを押さえ、何度も目を閉じようと試みるが、まぶたはおりない。

Sの兄がベッドのそばを離れ、通路へ出たときだった。Sは鼻をすすりながら、自分の口を父親の耳の横に寄せた。寝息の聞こえる病室に不似合いな、大きな声が響く。言い逃したくないからいま言うね、今までありがとね、たくさんありがとね、こんなに大きくしてもらってありがとね。ときどき涙でことばがつまる。

車で上板橋に戻り、3人で駅前の大番ラーメンへ。ラーメンを待つあいだ、Sの兄が妻のEさんに病院で聞いた話を電話で伝えている。目が閉じられなくなると、あと2〜3日とか、今夜とか、きっと経験則なんだろうね。わたしは大番ラーメンと餃子、Sはチャーシュー麺と餃子、兄はつけ麺と角煮丼のセット。8キロ痩せたがリモートワークで4キロ戻ったと話す兄は、こんなの食べてるの見られたらEさんに怒られちゃうな、とばつが悪そうに食べる。食べ終えて、わたしは上板橋駅から東上線で池袋へ戻る。S家泊。SとSの兄は上板橋の実家に泊まる。

東京都の感染者数113人。

 

7月14日火曜日

雨、曇り。かき玉うどん。うどんを食べていると、一匹の猫が横でゲロを吐き、一匹が猫便所でうんこをしはじめ、もう一匹が別の場所でうんこをしながら走り抜け、廊下にうんこが点々と転がっている。

Sから、まだ大丈夫、とラインが届く。風味亭が火事らしい、とも。

仕事の絵。

夜、東上線上板橋へ。北口駅前で見渡すと車から手を振るS。父の容体はかわらず、昨日より呼吸音が楽になった、おれも兄ちゃんもいまじゃなくても言い話をし続けて疲れた、とS。ちょっと散歩しよう気を抜こう、と言うと、ビール飲みたい、というのでコジマの駐車場に車を停め、マイバスで缶ビールを買い、飲みながら七軒屋公園へ行く。ここで父とキャッチボールをした、とS。そこから、ポンさんの大きな木、通っていた保育園、小学校のとき女の子から告白された地蔵前、を飲みながら歩く。死に待ち、死に待ちだよね、どうして時間をつぶしていいかわからない、とS。ブービックで夕飯。焼肉を食べながら、Sはノンアルビールを飲み、ご飯をおかわりする。Sは今日も上板橋の実家へ泊まる。わたしは東上線で池袋まで、S家へ。

東京都の感染者数143人。

ツイッターでは、「#GoToキャンペーンを中止してください」。

0時過ぎ、布団に転がっていると、病院から電話があった、とSから連絡が入る。終電に間に合うか、それともタクシーか、悩むのも面倒で、往来座のチャリに飛び乗り板橋の病院を目指す。小雨で体が濡れていく。途中、ビックボーイ跡地に出来た焼肉屋のところで、一度連絡しようとスマホを見ると、亡くなりました、とSからのラインに気づく。電話をもらってからほぼ1時間後、病院の駐車場に着くとSの姿。間に合わなかった、とS。

一緒に病室へ。霊安室はなく、さっきまでの4人部屋のベッドにそのまま、病院着から麻の葉文様の浴衣に着替え、顔に白い布をかけられ、Sの父親は横たわっている。Sとベッドの横に置いた椅子に座り、上板橋の仲間のひとりが働く葬儀屋の到着を待つ。部屋からは、ほかの3人の寝息が聞こえる。廊下や階段をぱたぱた歩く、スタッフたちの足音が響く。Sがスマホの電卓を押しながら、父が倒れてから2013日目だ、と小さな声で言う。心電図が止まったのは0時2分なんだけど、家族がいないと死亡確認できないんだって、だから亡くなった時間は0時20分、死亡診断書も今日は出ないって、明日だって。2時近く、葬儀屋がやってくる。通路に出され待っていると、白い布で全身を包まれたSの父親が、ストレッチャーにのせられて出てくる。エレベーターが閉まるまで、病院のスタッフたちが頭をさげ続ける。

Sの実家へ葬儀屋の車を案内する。路地の奥の入れるところまでケツから車を入れる。敷き布団、掛け布団、枕、座布団、を出してください、と言われ、どこに閉まってあるかわからず押し入れをあちこち開けて探す。Sの父親を自宅で介護していたとき、介護ベッドで寝ていた部屋に布団を敷く。葬儀屋は、北はどちらでしょうか、と言いながらスマホの方位磁石で北を確認し、宗派も確認し、それではおつむは北枕で、とSの父親を寝かせ、ドライアイスを体のうえにいくつも並べて布団をかける。冷房は強めでつけっ放しにしてください、と葬儀屋。小さな祭壇のようなものに、ろうそく、鐘、線香立て、などを設置し、では今日はこれで、明日の午前中にまた参ります、と葬儀屋が帰っていく。こんなにいろいろ用意するなんて知らなかった、あせっちゃった、おつむなんて言うから笑いそうになっちゃった、とSが笑う。ドライアイスが入っていた保冷バッグが置かれていた床が素足に冷たい。庭に生えていた花をむしり小さなガラス瓶に入れて添える。ありんこついてる、とSが言い、1匹つまんで捨てに行く。

買い物に行くSとコンビニの前で別れる。Sは今日も上板橋の実家に泊まる。わたしはまたチャリで雑司ヶ谷まで帰る。行くときは池袋から大山までの道のりを遠く思ったが、帰りは上板橋から大山に出るまでを遠く思う。また小雨で体が濡れていく。要町近くのボーリング場、巨大なハタ・スポーツプラザは取り壊し中。池袋の西口のラブホ街から飲屋街を抜けて走る。交差点の信号でサラリーマンらしきスーツ姿の男が3人、もうおっぱい行きましょう、おっぱい、と声をあげている。3時過ぎでも池袋演芸場そばの飲屋街には客引きの姿がちらほらある。カラオケのパセラは、深夜とも思えない音量で流行りの歌をスピーカーで吐き散らしている。雑司ヶ谷に着いたのは4時近く。S家泊。

東京都の感染者数143人。

 

7月15日水曜日

曇り。昼過ぎに電話すると、兄とEさんが来てくれてる、これから葬儀屋さんが来るよ、とS。かぼちゃクリームパスタ。

仕事の絵。

東京都の感染者数165人、警戒レベル最高に引き上げ。

夕方、着替えを取りにSが雑司ヶ谷へ戻る。おばさんたちがさぁ、父の顔を見て、あらおばあちゃんそっくりねって。Sと、池袋西武の地下で花を買い、東上線上板橋へ。道で、弔問に来てくれたJUさん、BUさんとすれ違う。1時間近くもいてくれたらしい。Sの実家に着くと、Sの兄とEさん。JUさんたちからもらった立派な百合が供えられている。引き継ぎして兄たち帰る。缶ビールを飲みながら、見ながら泣きたい、とSが押し入れから持ってきたSの父の若いころのアルバムを見る。ときどきSがぴゅっと泣く。駅前のひなたへ。カウンターは2人分ずつ透明のビニールで区切られている。焼きトン、パクチーのサラダ、山芋、セロリの漬物。Sは今日も上板橋の実家に泊まる。わたしは東上線で池袋まで。S家泊。

 

7月16日木曜日

曇り。かき玉うどん。映画「この広い空のどこかで」を観る。でこちゃん。

仕事の絵。

夜、往来座に寄ってから、東上線上板橋へ。Sと改札で落ち合う。駅前のファミマで缶ビールを買い、飲みながら実家へ。病院から戻ってきた荷物をひっくり返し、眼鏡をSの父親の枕元に置く。花の水をかえる。nとPOさんが好きだという、よろい寿司に行ってみたい、とSが言うので行く。玉子焼き、ジュンサイ、ホヤ酢、中トロ、穴子。食べ過ぎる。駅前でSと別れる。Sは実家へ。わたしは東上線で池袋まで、S家泊。

 東京都の感染者数286人、過去最多を更新。