断片日記

断片と告知

中田忠太郎詩集『かひつぶりの卵』龜鳴屋

中田忠太郎詩集『かひつぶりの卵』が出来上がりました。装画、扉絵、検印紙の版画を担当しています。龜鳴屋の「置去り詩人文庫」シリーズの3作目です。

書籍編集発行所「 龜鳴屋」

後書きによると、中田忠太郎は明治四十年(1907年)石川県河北郡津幡町の旧北国街道沿いの油屋に生まれました。中学三年生のころより詩作をはじめ、大正十四年(1925年)一月、金沢一中生の仲間たちと同人誌『翁行燈』を創刊。三月にはじめて上京、受験に失敗し、十二月に唯一の詩集『かひつぶりの卵』を私家版として上梓しました。『かひつぶりの卵』は十代の青年の詩集です。受験に失敗し「都落ちの汽車」に乗る詩がいくつも出てきます。銭湯の詩も2編出てきます。ほとんどの人が中田忠太郎の詩を知らないと思いますので、詩集の中からわたしが好きな詩を四編紹介いたします。

 

「雨」

ながあめ ながあめ 細いながあめ

庭の赤い石 青い石もつめたい

 

くろいレコードはしめやかに廻ってゐる

 

手紙は濡れてとどいた ながあめ

 

「心境」

お忘れ物をなさいましたか―

 

郊外のステーシヨンの歩廊で

かう呼びかけて吳れるやさしいお嬢さんが

ほんたうにあるとしたら

 

幾臺も 幾臺も

電車は花曇りを積んで來るのに忙しい

 

へんにふわふわしたこの花曇りの下でです

へんにふわふわしたこの花曇りの下でです

―お忘れ物をなさいましたか

 

「煙突」

都落ちの汽車は海近くの暁の町を走る―

 

汽車の中で夜の明けたぼくの眼に

煙のかすかな町の煙突よ

それが風呂屋の煙突であるといい

 

「寂しい線路」

遠く都につづいてゐるからそれは寂しい

 

枕木と石との間から

ひよろひよろした緑の雑草がのぞいてゐる

 

その上を走る汽車の窓から

どんどん物が後に消えてゆく寂しい線路よ

 

兩側には菜種畑の黄ろい花さかり…

とほく都につづいてゐるといふから……