断片日記

断片と告知

羽鳥書店まつりの日々

2月10日から14日までの4日間、駒込大観音境内で、ひとりの人間の20年分の蔵書1万冊を処分するための古本市、がおこなわれた。この前代未聞の古本市は開催前からあちこちで話題になったが、話題になればなるほど、この古本市を心配する声が周りからはあがっていた。手伝いの人数は足りているのか、大規模な古本市に慣れている人間はいるのか、大量買いのお客様が来たときのレジの対応は、と主な心配の声は、青空古本まつりやビックボックスの古本市を開催している「わめぞ」の早稲田組からのものだった。邪魔にならない程度に、行ける人間だけでも手伝いに行こう、と決まったのは、前々日の夜のこと。古本屋でもなく古本市といえば「わめぞ」のものしか知らない私がレジの手伝いを申し出たのは、自分でできる範囲で何かしたかったのと、この前代未聞のお祭りを外からではなく内から見たかったのとの、両方だった。
手伝いに参加した初日から13日までの3日間、毎日雨か雪だった。朝10過ぎに会場に着くと、境内にはすでに雨よけのテントが張られ、100円、500円、1000円と、値段別に分けられた本たちがダンボール箱に入れられ、その下に並んでいた。境内奥の建物の中を覗くと、仕分け中の本の山とダンボール箱の山が見えた。初日の朝の時点で、まだ未整理のダンボール箱が全体の三分の一あった。
雨か雪かの天候の中、いつの間にどこから、とテントを覗く人たちが増えていく。レジ周りの細かい設営と打ち合わせをして開場の11時を迎える頃には、詰めかけた人たちが隙間なくテントの周りを、おそらく狙った本があるであろう場所を一歩も譲らず、といった様子で囲み、古書ほうろうさんの合図を今か今かと待っている。開始の合図とともにテントの周りに張り巡らされたロープを切るはずが、合図とともにお客さんの手と体が本に伸び、叫んでいる古書ほうろうさんとナンダロウさんをはじめて見たよ、と古本市初日の殺伐とした様相を、まだ暢気なレジから眺める。
しばらくすると10冊20冊と本を抱えた人たちが、まだ買うので取り置きを、とレジに本を預けていく。そんな何十冊という山が、レジの後ろの取り置き台に山脈のようにたまっていく。本たちは一箱また一箱と、減ったそばから補充される。まだ何か面白いものが出てくるのではと、期待して立ち去れないお客さんたちが、大して広くもないテントの下をぐるぐると回る。
取り置き分の大量の会計も、100円500円と均一なので思ったよりも楽にすんだ。本を抱えてレジにやってくるお客さんたちの、こんなに買ってこの値段なの、と疑問符つきの笑顔を見るのもうれしい。開始から2時間後くらいのレジの混雑も一段落したころ、昼飯の配給にありつく。配給は、コンビニのおにぎりだったり、サンドイッチだったりするのだが、寒い中、一緒に働く人たちと仕事の合間を縫って食べる食事は、いつもよりも美味しく楽しかった。取り寄せた酒粕で作ったという甘酒も、冷えた体に暖かく沁みた。
そんな毎日を、会期中3日間過ごした。連日深夜まで本の値付け作業をしていた古書ほうろうさんたち、テント設営やレジを手伝う谷根千の人たち、そんな人たちと混じり、外からでなく内からこのお祭りを見られたことがとてもうれしかった。なので、古書ほうろうさんたちに、手伝いに来てくれてありがとう、と言われると、自分のために来たのだからと恥ずかしかった。こちらこそ手伝わせてくれてありがとう。楽しい古本市を実現してくれて、どうもありがとう。